山崎豊子 - 沈まぬ太陽(三)御巣鷹山篇

本篇を読むのは2回目。
前回は1、2巻を読まなかったので、事故の惨状が強く印象に残ったが、今回は登場する人物像なども理解していたので、より迷走する国民航空の姿が浮き彫りになった。


印象の残ったくだりはP79の感動的な救出場面。

 次いで、川上慶子を吊り上げた。ぐったりしている少女が空中で揺れないように、佐久間二曹が両腕で上体を抱き、下肢を自分の太ももの間にしっかり挟んで、ロープに身を委ねた。少女の体が重いとも、軽いとも思わなかった。ただこの少女を落とさないようにという一念であったが、ふと上を見ると、一メートル四方のカーゴ・ドック(貨物搬入口)に、少女を抱えたまま入れるか、不安を覚えた。万一、入れないような場合は、二時間でも、三時間でも、安全な地点へ着くまで、この少女を絶対、落とさず、抱きかかえていこうと、心に決めた。
 少女が、佐久間二曹ともどもヘリに無事、収容された時、地上の男たちは感動のあまり泣いた。 

そしてP99の事故を起こした国民航空に対する行き場のない遺族の怒りの場面

「わが社は、現場へは立ち入り禁止になっております。警察からの発表を待つほかない次第で、誠に申し訳ありません。」
「加害者には、直接、情報が入らないというわけかね? そんなことでどうしてわれわれの世話係がつとまるんだ、企業の体をなしていないじゃないか」
 企業の体をなしていないと云われた言葉が、恩地の胸にぐさりと突き刺さった。