山崎豊子 - 沈まぬ太陽(四)会長室篇・上

御巣鷹山の惨劇から一転、国民航空の利権に絡んだ腐敗体質がクローズアップされ、さすがに辟易し、読んでいて疲れた。
今回心に残ったのは遺族による新聞への以下の投稿。

おねがい パパ
 もう一回だっこして
もう一回
 いっしょにごはん
いっしょにごはん
 食べてよ
早く早く
 おうちに帰ってきて
そして
 おしゃべりしよう
         (遺児・神戸市在住)

そして国見会長の国民航空における問題点の鋭い洞察力。

一、遺族補償に最善を尽くし、政府も最大の努力をすることを、最優先とする。
二、経営責任の不在。国の手厚い保護によりかかり、親方日の丸体質による会社
  収益に対する無関心があ  る。この点を猛省、改善する。
三、労使関係の抜本的改善。一企業に四つの組合が存在、反目し合い、モラール
  が低下している。四組合  に対し、反省と自主性を以て、労使関係の是正を求める。
四、安全体制の確立。機材の耐用年数と整備計画の検討、及び操縦士と整備士の技術養成、
  訓練の検討を行う。
五、財務体質。特に自己資本比率の低さ、内部保留の脆弱さの是正。

そして、遺族の癒されることない心情を吐露する場面。

 瀬川はそう呟き、妻と三人の子供を喪った頃の絶望の日々を思い返した。会社に出ている間は、仕事で気が紛れたが、誰もいない家に帰るときが辛かった。スーパーで弁当を買って帰り、一人で食べていると、子供の遺していった物が眼につき、声を上げて泣いたこともある。五人で囲んでいた食卓に、独り座ることは、まさに無間地獄であった。
 今もそのときのことを思うと、いいようのない哀しみと怒りが噴き上げて来る。地獄の淵から這い上がり、いつか彼岸で妻子と会うときに、「お父さん、よく頑張ったね」と云われるようになりたかった。

沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)
山崎 豊子
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